直行さんの絵
絵を買った。人生で初めての「絵を買う」という体験談。
自分は物欲が強くない、基本、山道具以外に無駄なお金を使いたくない人である。近くに徒歩か自転車で通岳できる山があればと常々考えており、通岳費(ガソリン代)もできるだけ減らしたいとさえ思っている。そんな自分だが、ここ最近は釧路に幽閉され育児に束縛され、どこにでもいるフツーの父親を演じている。自分の時間がなかなか取れず、先週末は3ヶ月ぶりの登山だったのに、嫁から白い目でみられてしまった。
で、気が付いたんだが、山に行かないと手元に金が貯まるのである。フツーの父親なら、これをどう使うのだろうか。居酒屋に通うのか、煙草を嗜むのか、愛車をカスタムするのか、賭博で浪費するのだろうか。登山以外に趣味のない自分は、まったくイメージがつかない。嫁や子供にプレゼントを買うとしても、そこまで高価なものを欲しがるわけでもない。旅行には行きたいけど、まだ子供が小さい。貯金や投資は、実はそれなりに計画通り取り組んでいる。
前置きが長くなったが、登山できないモヤモヤと手元のゼニをどうするか考えて、絵を買うことにした。前から欲しいなと思っていた「坂本直行」の絵である。今更説明することもないだろうが、坂本直行は北大山岳部出身の開墾家・画家であり、六花亭の包装紙のデザインで有名なあの人である。十勝の六花の森にギャラリーがあって、誰にでも一度は訪れて欲しいお気に入りの場所である。また生家が釧路で、そんな妙な繋がりも意識してしまった。絵について学のない自分だが、坂本直行の絵なら何時間でも観ていられる。
札幌へ出張した帰りがけに、とある画廊によって買ってきた。冬の日高山脈を描いた水彩画である。正確には「シルクスクリーン」と言って、オリジナルの絵を忠実に再現した版画である。贋作というわけではなく、画家の遺族が枚数を限定して版画家に依頼して作らせる正式なコピーということらしい。その証拠に、左下に版画の刷番号が記入されている。版画だといっても限定品のため、そこそこのお値段ではあった。
絵を購入したら、2日後にゆうパックで届けられた。丁寧な包装を解いて、玄関に飾ることにした。一生の宝物にしたい。人生で初めて「絵を買う」という経験をしたが、何気ない日常が特別な時間と空間になる良い買い物だったと思う。本当はオリジナルの油絵が欲しかったのだが、それこそ超希少で、出品が少なくお小遣いで買えるような代物ではない。いつの日か、坂本直行の油絵を自宅に飾りたいと思う。