幌尻岳
僕が一度死んだ山。因縁の山。金沢からお越しの兄ちゃん先輩と。
僕にとって、幌尻岳での山スキーとは「自分が何のために山に登るのか」の答えのひとつである。この課題を終わらせたら「自分の中の何か」が終わる気がして、この山域に近づくことを避けていた。林道の修復を待ち5年後とか10年後にでもとのんびり考えていたのだが、今回、先輩からの提案で挑戦することになった。
車中泊のため前日に林道を走らせる。5年前に死にかけた戸蔦別川橋が完全修復されており感動した。深夜1時、びれい橋をスタート。闇夜に光るエゾシカの瞳孔にビビりながら八ノ沢出会へ。先輩とのご無沙汰トークで飽きることなく歩き通す。かなりいいペース。今年は雪融けが早く、ここから沢登りパートが始まる。両足をビチョビチョに濡らしながら850あたりでようやく雪が繋がる。シールに履き替えるが、程なくして沢は一面のデブリランドに覆われた。悔しいが板を脱いで再びツボ足。滝をいくつか攻略したらようやく日が昇ってきた。神威岳西の1680コルを目指して直登あるのみ。登り切ると、ついに幌尻を射程圏に収めた。シールを剥がして新冠川へ一度降りる。ガリガリ。スノーブリッジもどきで渡渉したら、あとは山頂を目指してひたすら登るだけ。ペースを抑えつつ、写真を取り合いながらの楽しいスノーハイキング。
幌尻まであと少し、カールバンドが僕たちを包み込んだ。寒さでも疲労でもない震え、全身の震えが僕を襲う。ただこの山に登っているという事実が、僕を震わせているのだ。山頂までノーアイゼン、入山から8時間でピーク到着。なんだか、喉奥の小骨が取れたような気分だ。適当に写真撮ったら、東カールへお楽しみのスキー。アトミックバックランド78に全神経を集中させ、ザラメをかっ飛ばす。最高だ。途中で我にかえり「ここで怪我するわけにはいかない」ことを思い出し、スピードを抑えながらカールボーデンへ。やりきった、太ももが笑っている。先輩も笑顔だ。
喜びを爆発させたら、緩い尾根スキー。仕上がったシャバに舌つづみを打つ。これぞマンダム。辛い登り返しが待っているが、スキーが楽しければノープロブレム。最後のシールを取り付け、アドレナリンに頼りながら登り返し約500メートル。幌尻も見納めだ。シールを剥がしてダイブ。八ノ沢源頭も素晴らしいスキー場だった。辛いデブリ歩きと林道ウォークをこなして、車にたどり着いたら15時間の完全燃焼でした。
これぞ、山スキーアルピニズム。もう思い残すことはない。いい人生だった。
最高点の標高: 2063 m
最低点の標高: 579 m
総所要時間: 15:13:22